技・篆文

今週もラジオのテーマ「あなたの周りのプロのわざに触発されました。もし、「あなたの周りのプロの技」を持つ人は?と聞かれたら、私は、仕事柄「三千年前の青銅器を生み出した中国の職人たち」と答えるだろうなと思ったりしました。もちろん、その人たちが身近に生きているわけではないですが、その人たちが残した素晴らしい青銅器やそこに()込まれた古代文字が今でも私たちに様々なことを語ってくれるからです。

三千年も前に作られた青銅器ですが、機会があれば是非一度ご覧になってください。その造型の美しさ、すみずみまで神経の行き届いた細工、精巧な紋様等など、三千年前とは思えない技術の完成度に驚嘆します。

そんな「プロの技」を見ることができる場所が、身近なところにあります。東京では、根岸にある「台東区立書道博物館」です。正岡子規の「子規庵」の向かい側にあるこの博物館には、三千年前の文字が鋳込まれた青銅器が(数は多くありませんが)展示されています(最古の漢字を刻んだ甲骨片もあります)。

現代のプロの技も素晴らしいですが、三千年も前に青銅器に漢字のルーツを残してくれた殷や周の国のプロたちの「技」にも出合っていただけると嬉しいです。(ちなみに京都なら岡崎にある「泉屋博古館」がお勧めです。青銅器の逸品を数多く見ることができます。神戸には「白鶴美術館」もあります。もちろん、中国や台湾に行けば立派な青銅器に数多く出合えますが・・・)

ということで、今日は「」という漢字を取り上げます。

支・篆文(支・篆文) 枝・篆文(枝・篆文)

まず「技」という字に使われている「()」という字のルーツから。
「支」は「十と又」からなる字です。古い文字を見ると「十」は小枝を「又」は手を表しています。ですから、「支」は「小枝を手に持つ形」で、それだけで木の「えだ」を意味する字でした。

その「支」が、後に「えだ」という意味だけでなく「ささえる、わかれる」の意味で使われるようになったため、「木へん」をつけて「えだ」を表す「枝」という字を新たに作ったのでした。

技・篆文(技・篆文)

その「支」に「手へん」をつけた「技」はどういう意味をルーツに持つのでしょうか。

「支」はもともと「(木の幹から分かれた)小枝を手に持つ」形ですから、「わかれる、わける」の意味で使われるようになりました。本店を中心として枝のように広がるお店を支店」といいます。「(もと)」から分かれた先端を表します。

「技」という字は、その細かく分かれたイメージを受け継いでいます。それに「手へん」がつきます。「手へん」が手を使った仕事を表すと考えると、「細かなところまで神経の行き届いた『手仕事』が出来ること」を表す字といえるかもしれません。「プロの技」とはそういうものだからです。古代の人びとは「巧みな手仕事」をすることを「技」という字に込めました。

それなら、巧みに舞ったり、踊ったりする舞台の役者たちの「わざ」は何というのでしょうか。

伎・篆文(伎・篆文)

それに該当する字もあるのです。それは人そのものが身振り、所作で表す「わざ」なので「(にん)べん」をつけます。「人べん」に「支」と書く「()」という字です。なじみのない字のように見えますが、演劇に関する字の中に入っています。「歌舞伎」です。今はこれ以外にあまり使いませんが、昔は、手わざの「わざ」には「技」、身振りの「わざ」には「伎」と同じ「わざ」でも使い分けていたのです。「ぎのう」という言葉にも「技能」と「伎能」と書く字がありました。

今回もラジオのテーマに触発されて「わざ」にまつわる漢字を扱いました。(いつもこんなに都合よく漢字の話につながるテーマばかりではないと思いますが・・・)「わざ」を表す字にも二通りあることを知ってもらえたらうれしいです。

それと古代中国の人びとが作った「青銅器」の「技」にも関心をもっていただければうれしいですね。機会があれば是非ご覧になって下さい。

放送日:2015年9月14日