足・甲骨

今日(10月12日)は「体育の日」なので体にまつわる漢字を取り上げようと思います。
古代中国の人々にとっても、体に関することは身近なことだったので、たくさんの漢字が作られました。手や足そして目や耳など、そのものの形を絵のように(かたど)った漢字=象形文字ができました。

手・篆文(手・篆文) 目・甲骨(目・甲骨) 耳・金文(耳・金文)

「手」は五本の指を広げた形、「目」や「耳」はそのものの形を表しています。では、「足」という字は何を象っているのでしょうか。(「足」という字にある「口」の形が何を表しているのか、まず考えてみてください)。

足・甲骨(足・甲骨) 足・金文(足・金文)

いかがでしょうか。「口」の形は、「膝頭」を表しています。足の膝のお皿です。そのお皿から下の足の指までを表したのが、「足」という字です。古い文字では、お皿(古い文字のお皿)の下に足あと(足あと)の形がついています。

古代の人々は、この「足あと」の形を使って「足」の字以外にも様々な字を作りました。「足」という字の「口」の下の部分(足パーツ )と同じパーツを持つ字には、「走る」の「走」があります。

走・甲骨(走・甲骨)

「走」の上部=「土」の部分は、古代文字を見ると「人が走るポーズをしている」その姿がそのまま描かれています。

では、「歩く」の「歩」は、どんなふうに作られた字でしょうか。今の字は「止まる」の「止」に「少ない」の「少」を組み合わせた形ですが、古い文字を見ると、左と右の足あとが互い違いになった字です。右足、左足を出して前に進む形で「歩く」ことを表しています。左右の足あとの形が、「止」と「少」の字に形を変えて現在の字ができています。

歩・甲骨(歩・甲骨) 歩・金文(歩・金文)

ということで、「止まる」の「止」も足あとに一本棒を引いて、そこで足が「止まる」ことを表した字なのです。
今では「足あと」が入っているのかわからなくなっていますが、「出る」という字の「出」にも足あとがついています。「足あと」をつけて踏み出すことが「出る」ことだったのです。

止・甲骨(止・甲骨) 出・甲骨(出・甲骨)

漢字ができてすでに三千年以上も経っているので、字がいろいろな形に変化していますが、漢字が生まれたころに戻って形を見てみると、どの字にもみんな「足あと」の形が入っていることがわかります。「足」・「走」・「歩」・「止」・「出」、すべて「足あと」のパーツが入っているので、みんな共通した発想から作られていることがわかるのです。そんなことがわかるのも、漢字のルーツを探る楽しさです。

 

さて、最後に応用問題です。止まるという字が入った字に「正しい」の「正」があります。「正しい」という字に「足あと」が入っているのはなぜでしょうか。

正・甲骨(正・甲骨)

*ヒント1:征服するの「征」にも「正しい」という字が入っています。

*ヒント2:古代文字の口の形は膝頭ではありません。この場合は「城壁に囲まれた都市」を表します。

「正」は城壁に囲まれた都市に向かって歩みを進める=進軍する形を表しています。何のために進軍するのか、それは都市を征服するためでした。古い時代には「正」は征服の「征」と同じ意味で使われていました。都市を征服することは、征服した側から見れば「正しい」行為であり、「誤りを正した」ことになるのでした。

それで、「正」は「ただしい、ただす」の意味で使われるようになりました。そこで、本来の「征服する」という意味を表す字を新たに作ったのです。それが「征」でした。勝つ側の論理が「正しい」ことを表すとは・・・なんともつらい話ですが、「正」という字にこんな成り立ちが潜んでいることを知ることも、漢字のルーツを探ってみるからです。

今回は、体にかかわる字をいくつか取り上げてお話ししようとしたら、「足」だけの話で終わってしまいました。折を見て他の体から生まれた漢字についても取り上げてみたいと思います。

放送日:2015年10月12日